市川メディカルクリニック

糖尿病専門外来医師:多和田 眞人

糖尿病コラム「糖尿病とは」

糖尿病専門外来医師:多和田 眞人(たわた まさと)市川メディカルクリニック
糖尿病専門外来医師:

多和田 眞人(たわた まさと)、塩山市民病院院長
信州大医学部卒。米・ベイラー医科大糖尿病研究センター留学後、山梨医科大(現山梨大医学部)第三内科助教授、塩山市民病院副院長を経て、平成27年4月から現職。日本内科学会、日本糖尿病学会評議員、糖尿病専門医、糖尿病研修指導医。東山梨糖尿病連携の会、峡東糖尿病研究会などの代表世話人。峡東Dental Diabetes 研究会の代表世話人。峡東地区医科歯科連携専門的口腔ケアシステムコオーディネーター。
 血糖値が早朝空腹時で126mg/dl以上、食後(随時)で200mg/dl以上、または75g経口ぶどう糖経口負荷試験の2時間値で200mg/dl以上のいずれかの場合に「糖尿病」と診断します。日本人の95%は2型糖尿病です。インスリン分泌不全、または末梢組織でのインスリン感受性低下のどちらか、あるいはその両方の原因で発症します。
 糖尿病は「生活習慣病」のひとつです。糖尿病は、発症のきっかけが生活習慣の悪化であったとしても、ある一定の病期を超えると、生活習慣をいくら改善しても逆戻りしない進行性の病気です。ですから重要なことは、予防・早期発見・早期治療です。そのために大切なことは、定期検査です。早期に治療が開始できれば、健常者と同じ生活を送ることもできるのです。定期健康診断を進んで受け、予防・早期発見・早期治療を心がけて下さい。
 高血糖を放置すると、血管合併症を発症します。まず糖尿病に特有な小さな血管の合併症(細小血管症)として、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害があり、これらを三大合併症と呼びます。糖尿病性網膜症は、年間3000人が失明し後天的失明原因の第二位です。糖尿病性腎症は、進行すると人工透析が必要となり、毎年新たに1万6千人以上の方々が透析導入され、原因の第一位となっています。医療費は一人年間約500万円以上です。次に大きな血管の合併症(大血管症)として、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などの血管イベントがあります。血管イベントで直接死にいたることもあり、片麻痺や認知症の後遺症が残ったり、足の切断が必要となることもあります。命はとりとめたとしても、生活の質(QOL)が著しく低下する可能性が高くなる訳です。しかしちゃんと血糖値を管理すれば、血管合併症を予防し、健常者と変わらない生活を送ることが可能です。
 最近注目されている合併症が歯周病です。歯周病があると糖尿病が悪化し、さらに糖尿病があると歯周病が悪化し易くなり、悪循環を形成します。HbA1cが悪化した際は、歯科医で歯周病の有無を調べてもらいましょう。歯周病の適切な治療で、HbA1cが0.4%程度低下することが報告されています。かかりつけ歯科医を見つけて下さい。

糖尿病の治療#1:食事療法
 体重が肥満レベルであれば、食事の全体(カロリー)量が多いか、運動量が少ないか、あるいはその両方です。“そんなに食べてない“と考えるのは本人の主観であって、肥満レベルであれば、客観的には”相対的に必要以上に食べている“ということです。次に大切な点は、糖質・脂質・たんぱく質のバランスの良い食事です。全カロリーの半分以上は糖質で摂りましょう。最近、低糖質食がメディア等で報道されています。一定期間、医師の管理下で十分観察しながら実践するのは、体重減量のメリットが確認されています。しかし糖質を減らすことは、脂質とたんぱく質が増えることになりますので、長期的な安全性はまだ確認されていません。脂質が増えるマイナスの影響が危惧されているので、低糖質食を医師に黙って長期に続けるのはおやめ下さい。特に後述のSGL2阻害薬を処方されている方の場合は、低糖質食は危険ですのでおやめ下さい。
 野菜などの食物繊維を含む食品を先に食べることで、血糖上昇抑制効果が実証されています。時間をかけてゆっくり噛むと、血糖の上昇を遅くする効果と、脳そのものを刺激して認知症の予防にもなることが報告されています。
糖尿病の治療#2:運動療法
 運動療法の基本は有酸素運動で、ウォーキングやジョギングなどの比較的ゆっくりした運動です。まず早朝空腹時の運動は避けましょう。早朝空腹時の運動により脱水状態が助長され、脳梗塞、心筋梗塞などの血管イベントの引き金になることがあります。その時間帯しか運動できない場合には、水・白湯などを200~400ml程度飲んでから開始して下さい。血糖降下剤を服用されている方は、低血糖対策もして出かけて下さい。運動は週に3日(できれば4日)以上実践すれば効果が持続します。フィットしたシューズを履いて下さい。十分な準備体操とストレッチをし、ゆっくりしたウォーキングやジョギングから開始し、徐々に強度を増やすようにして下さい。運動強度に関しては主治医と相談して決めて下さい。可能な方は、レジスタンス運動も取り入れて下さい。レジスタンス運動と有酸素運動を組み合わせることで、運動の効果が飛躍的に高まることが報告されています。
立つだけでも、背もたれのない椅子へ座り上半身を動かすようにするだけでもいいのです。大きな声で歌うことも、りっぱな運動療法のひとつです。日常生活で体を動かすことすべてが運動です。運動にも様々なレベルがあることがお分かり頂けたと思いますが、ご自分にあった運動を賢く選んで、継続して下さい。できるだけ無理なく、楽しくそして長く続けられる運動を見つけて下さい。
糖尿病の治療#3:薬物治療
 食事療法、運動療法で血糖コントロールが不十分な場合(一般的にはHbA1cで7%未満を目指します)は、薬物治療が必要となります。
 薬物治療には注射製剤と内服薬があります。注射製剤には、インスリンとGLP-1アナログ製剤と呼ばれるものがあります。
 インスリンにも超持効型、超即効型などがあり、毎日4回(持効型1回、超即効型3回)皮下注を実施する場合を、強化インスリン療法と呼びます。さらに、超即効型インスリンを注入器で24時間持続的に皮下注する方法もあります(CSII)。患者さんの病態に合わせて選択します。インスリン療法は、早期に導入することで中止する可能性が高まります。インスリンを使用している場合は、自己血糖測定が保険で認められているので、低血糖予防などの血糖コントロール改善に役立ちます。
 GLP-1アナログ製剤も、短時間作用型と長時間作用型がありますが、最近は1週間効果が持続する製剤もあります。
 現在日本では7種類の内服剤があります。患者さん方の病態に合わせて、薬剤を選択処方します。作用機序の異なる薬剤をいくつか組み合わせて処方することが一般的です。最近登場したSGLT2阻害剤と呼ばれる薬剤は、強制的に糖を尿に排泄する薬です。1日約300キロカロリーの糖を排泄しますが、食事を多く摂取すれば、まったく効果は得られません。すべての薬剤に言えることですが、特にSGLT2阻害剤の場合には、食事療法をちゃんと遵守することが最大効果の発現に不可欠です。逆に、低糖質食とSGLT2阻害剤の併用はとても危険です。主治医に内緒で低糖質食を実施するのはおやめ下さい


糖尿病などの病気の治療と大村智先生の「生ききる」について

 平成28年元旦の山梨日日新聞に、大村智先生と林真理子さんの対談が掲載されていました。対談で大村先生は、高齢化社会では「生ききる」ことが重要だと説いていらっしゃいました。私は、「生ききる」とは「悔いのない人生を送ること」だと解釈しています。悔いのない人生を送るには、皆様一人ひとりが人生の意味・使命を自覚し、それを全うすることではないかと考えています。
 病気を放置すると人生の意味・使命を全うする妨げになるのではないでしょうか。 病気の治療は、治療それ自体が目的ではなく、もっと大切な何かもっと価値のある何かのためだと捉えれば、重荷が少しは楽になるのではないでしょうか。 皆様方全員が「生ききる」ことができるよう、最大限お手伝いをしたいと考えています。

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